役員社宅節税の落し穴 6 社会保険上の役員負担額の計算

社会保険上の役員負担額とは

節税の話をしていると、つい社会保険の話を忘れてしまうのですが、役員社宅では特に注意が必要です。なぜかというと、節税本の中には、税務上の役員負担額のことばかり開設していて、社会保険上の役員負担額(役員への現物給付額)について言及していないものがあるからです。

社会保険上も、税法と同様に給与に該当しない(社会保険料をは払わなくていい)ために、役員から一定の負担額を徴収すべきというルールが独自であります。

つまり、税法と社会保険とで、役員負担額(=役員への住居提供という現物の供与が、給与とみなされない額)の計算方法が異なるのです。

 社会保険上の社宅役員負担額は以下の数式で計算します。

役員負担額=①社宅の生活スペースの帖数 × ②都道府県別に決まる1帖当たりの価額

①生活スペースの帖数

①生活スペースの帖数とは、居間、茶の間、寝室、客間、書斎、応接間、仏間、食事室など 居住用の室を対象とします。玄関、台所(炊事場)、トイレ、浴室、廊下、農家の土間などの居住用ではない室は含めません。また、店、事務室、旅館の客室などの営業用の室も含めません。

都道府県別に決まる1帖当たりの価額

 ②都道府県別に決まる1帖当たりの価額は、毎年日本年金機構が「全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)」にて公表しています。例えば、2022年4月以降の場合は、勤務地が東京都の場合、畳1帖(=1.65平米)当たり毎月2,830円になります。

もし東京都で、洋室が5帖、和室4帖、居間8帖の合計17帖の社宅に住む場合、役員負担額は、月48,110円(=①17帖×②2,830円)になります。

そして、この計算結果は、「税法上の役員負担額<社会保険上の役員負担額」になりやすいので注意が必要です。

例えば、税法上の役員負担額が月2万円で、社会保険上の役員負担額が3万円だったとします。税法しか意識してなかったがために、法人は役員から月2万円しか徴収していなかったとします。すると、税法上は問題ないのですが、社会保険的には徴収額2万円と3万円との差額1万円は、法人から役員への給与とみなされてしまいます。そうすると、毎月1万円だけ役員の給与が社会保険料の計算上増えるため、その分会社負担の社会保険料と個人負担の社会保険料が納付漏れになるわけです(社会保険料は、「xx円~xx円の間の月給の人の保険料はxx円」という風に、給与の幅を持たせた等級という概念を用いるので、1万円を追加しても等級幅の範囲内なら保険料の計算に影響がない場合もありうる)。将来、年金事務所の調査でばれる可能性があります。

特に、社宅がそれぞれの都道府県内の郊外にある場合、「税法上の役員負担額<社会保険上の役員負担額」になりやすいので、より一層注意が必要です。なぜなら、税法上の役員負担額は「個別の不動産毎の時価をベースに計算されるのに対し、社会保険上の役員負担額は「生活に必要なスペースの帖数×都道府県別に決まる1帖当たりの価額」で計算されるからです。社会保険上は、東京23区で最も地価の高い千代田区と、23区で最も地価の低い葛飾区が同じ単価で計算されるのです。税法上は、個別の不動産毎に時価が決まり、それを基に役員負担額を計算していますので、広さが同じなら千代田区の社宅の負担額は相対的に高くなり、葛飾区の役員負担額は相対的に低くなります。これらの関係を図で示すと以下のようになります。

都内2区での役員負担額の比較(広さが同じと仮定した場合)

 このように、社会保険上の役員負担額が税法上のそれよりも大きくなる可能性があるので、税法上・社会保険上の役員負担額を両方とも計算し、より大きい方の金額に合わせて役員負担額を決定すべきでしょう。

まとめ

 税法上の役員負担額だけでなく、社会保険上の役員負担額も考慮することに注意しましょう。特に、社会保険上の東京都の畳1帖あたりの価格が非常に高いので注意が必要です。また、郊外についても広い割に畳1帖あたりの価格が高くなるので、税法上の役員負担額を超える可能性が高まりますから注意が必要です。

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著者:税理士 鈴木 康寛

マイクロクラウド会計事務所所長似顔絵

大手監査法人在籍中に上場準備企業に出向して上場準備業務に従事、上場に成功。その後、上場企業の財務経理部門を経て独立開業する。自らもマイクロ法人を設立した経験を活かし『全ての人にマイクロ法人を』をモットーにマイクロ法人の素晴らしさを啓蒙中。

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