公正取引委員会とインボイス
公正取引委員会が2023年6月30日に「独占禁止法に関する相談事例集(令和4年度)」というものを公表しています。
この相談事例集のうち、30ページにある相談事例9というのが非常に重要になっています。
相談事例9の内容を簡単に説明すると、組合員のタクシー業者からタクシーチケットを引き取り、換金するX協同組合が、免税の組合員からチケットを回収した場合、免税組合員がインボイスを発行できないことからX協同組合がこの回収取引に係る消費税10%を負担することになります。
その負担を回避するためにX協同組合が免税組合員に対して、従来から徴収していたチケット換金手数料に、消費税の負担相当額10%を上乗せして請求するということが許されるかどうかという事例です。
結論としては、そのような請求はダメという見解になっています。
しかし、これは正確には経過措置を考慮せず消費税10%相当をそのまま実質値引きするようなことがダメなのであって、経過措置を考慮した2%相当の実質値引はOKということになります。
どういうことかというと、公正取引委員会は、「免税事業者からの仕入れに対してインボイスがなくても経過措置で消費税10%の8割(=8%)はみなしの仕入税額控除があり、その分は元々損にならないのだからこの分(8%相当分)を上乗せ請求するべきではない。」という理由付けを行っているからです。
逆に考えると、経過措置は将来的にはなくなるので、長期的に見れば「経過措置がなくなった段階では10%相当すべてを上乗せ請求することはOK」と公正取引委員会が言っていることになります。
これは、免税事業者にとっては長期的にはマイナスの相談事例です。
しかし、短期的にはプラスだと思います。というのも、免税事業者が得意先と価格交渉する際にはここまで細かく内容を理解している得意先はいないでしょうから、免税事業者としては交渉時に「公正取引委員会が消費税の負担増分の上乗せ請求(実質値引き)はダメと言ってます」と言えばそれで話は終わる可能性が高いと思うからです。最悪、2%の値引きには応じる必要はあるかもしれませんが、経過措置期間中のダメージは少なくなります。
経過措置は、最初3年間は8割みなしの仕入れ税額控除、その後3年間は5割に減額で、合計6年間あります。6年間のうちに商品やサービスの価値を上げ、値上げ交渉をするか、売上1千万円以上になって自動的に課税事業者になることを検討しましょう。
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